太平洋戦争が開戦してしばらくは日本軍が優位な時期が続いたが、このミッドウェー海戦での敗戦によって、日本軍の戦況は一気に不利になり、その後は敗戦へと突き進んでいく。まさに太平洋戦争のターニングポイントとなった戦いだ。『失敗の本質』の中でもミッドウェー海戦は詳細に書かれており、教訓となる要素が多い。
ミッドウェー海戦とは
ミッドウェー海戦とは?
ざっくりまとめてしまうと、日本とアメリカが睨み合う太平洋の真ん中に「ミッドウェー島」というアメリカの基地があり、これの攻略をめぐって日米がぶつかり合う戦いと言える。
この時の日本の大将は山本五十六。山本は、
「ミッドウェーまで日本の艦隊を出動させることで、アメリカの空母部隊を誘い出し、空母を撃滅する」
という作戦をたてたつもりだったが、官僚化しすぎた軍組織によって、この作戦はうまく部下に伝わらず、戦略的にはほとんど意味のないミッドウェー島を攻略することに海軍はエネルギーを注いでしまう。
上官と部下が最後まで意思統一できなかった戦い
山本五十六は、あくまでアメリカの空母部隊を殲滅しこの戦争の早期講和を狙っていたが、ミッドウェー海戦の主役である空母部隊「第一機動部隊」を率いる南雲忠一中将は、最後までミッドウェー基地を攻略することがこの作戦の目的だと思っていた。
上下の意思統一が不完全な日本軍に比べ、アメリカ軍は大将ニミッツ提督のもとで、よく組織されていた。さらに、アメリカ軍は日本軍の暗号解読にも成功しており、このことがミッドウェー海戦でのアメリカの勝利に大きく寄与することとなる。
ニミッツ提督
ミッドウェー海戦の背景
空母が勝敗の鍵を握る戦争
日本軍は真珠湾攻撃を奇襲し、ハワイの真珠湾に停泊していた戦艦を沈めた。宣戦布告前の奇襲はアメリカ軍の闘志に火に油を注ぐ結果となり「リメンバー・パールハーバー」の号令のもとアメリカ国民の反日感情は高まった。実は当時の大統領であったフランクリン=ルーズベルトは、「戦争をしない」ということをマニュフェストに大統領に当選していたのだが、日本による真珠湾攻撃によって、戦争をしないというマニュフェストを反故にする大義名分を得てしまったのだった。
前述したように、真珠湾攻撃の際に日本の戦闘機は停泊していたアメリカの戦艦を沈めたが、じつはこの時に大きな誤算があった。日本軍が攻撃した時、そこには空母がなかったのだ。これには、陰謀論めいたものも含めて諸説あるのだが、空母は演習で港を出ていたのだった。
日露戦争の時代では、戦艦が戦闘の主役だったが、航空兵力が台頭しだしたこの時期には、戦局を左右するのは航空戦力である。つまり、空を支配したものが戦いを制する時代だった。空母は戦闘機が飛び立ち、補給するための滑走路を敵の陣地まで輸送できる兵器だ。太平洋戦争時代の戦争は「空母を敵の陣地に運んだ方が勝ち」というゲームなのだ。真珠湾攻撃で大きなアドバンテージを得たと思っていた日本軍だが、じつは戦局を左右する敵の空母という要素には、まったくダメージを与えられていなかったのだ。
ドゥーリットル空襲
日本はドゥーリットル空襲を受けた。被害は軽微だったが、帝都東京が攻撃されたということに軍部は大きな批判を浴びさせられた。このために、当初は軍令部で反対されていた山本五十六の「ミッドウェー作戦」が可決されることとなった。
ミッドウェー海戦の経緯
ミッドウェー海戦は以下のような流れになる。
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ミッドウェー海戦のタイムライン
ミッドウェー海戦の複雑な時系列をタイムラインでわかりやすく見てみよう。
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さらに0520に敵空母接近の報せをうける。いよいよ敵空母が近くにいるということが明らかになった。
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後年になって、ニミッツ提督も語っているが、ミッドウェー海戦は日本もアメリカもミスの連続だった。アメリカに至っては空母からの離陸ですらうまくできず、空母から飛び立ちそのまま海に落ちた戦闘機もあったという。しかし、両軍の命運をわけたのは南雲司令の兵装付け替えの判断ミスが大きかった。トップの意思決定の失敗が、アメリカにとっての絶好の攻撃チャンスである「黄金の五分間」を作り出し、その後に続く太平洋戦争全体の勝敗もわけたといえよう。
参考になるアニメ
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これを見ながら上のタイムラインを振り返ると理解が捗ります!
ミッドウェー海戦の教訓
ミッドウェー海戦の教訓はたくさんある。順番に見ていくと、
ダメージコントロールの甘さ
アメリカ軍は空母の火災などに備えて消火の準備などをしていたのに対して、日本軍は攻撃を受けた事態の想定が甘かった。また、ニミッツ提督が破壊された空母ヨークタウンを三日で修理しミッドウェー海戦に投入することで、日本軍は存在しないはずの三隻目の空母に意表をつかれることになった。このように、破壊された空母を修復するという発想も含めて、日本軍は防御思想という点で米軍に大きく水を開けられていた。
暗号を解読されていた
暗号を解読したことで、アメリカ軍は、日本の奇襲を待ち伏せし、逆に空母を全て破壊することができた。戦場において、「情報」がいかに大きな意味を持つか考えさせられる。
曖昧な作戦目標と意思統一の甘さ
ミッドウェー基地を攻略するのが目標なのか?敵の空母を破壊するのが目標なのか?日本軍は最後まで意思統一を果たせずにいた。結果的に敵の基地を爆撃しつつ、空母が出てきたら魚雷で攻撃しよう、ということになり兵装の付け替えなど、現場の混乱を招いた。
一方、敵将のニミッツ提督は実にわかりやすい指示で軍の意思統一を果たしていた。
過度なマニュアル主義
敵の艦隊には魚雷で攻撃、基地には地上用爆弾で攻撃というマニュアルを重視しすぎ、結果的に空母から対空防御部隊が離陸するのが遅れ、米軍の爆撃を受けてしまった。まさに、孫氏の言葉「兵は失速を尊ぶ」で、爆弾でも魚雷でもなんでもいいから離陸して、敵の空母を攻めに行けば、日本軍にも十分な勝機があった。マニュアルも大事だが、一刻一秒を争う戦場ではアドリブを効かせることも重要だ。
温情主義
ミッドウェー基地を攻撃した第一部隊が帰ってきた時、南雲中将はジレンマに苦しんでいた。近くに敵の空母がいるかもしれないという情報が入った直後で、定石通りで考えればすぐに攻撃部隊を飛ばすべきだが、そのためには帰投しつつある攻撃部隊を海に不時着させなければならない。そんなひどいことができるかという味方への温情が、南雲の意思決定を失敗させた。
まとめ
- 火災に対する備えの不備など、ダメージコントロールの甘さ
- 暗号を一方的に解読され、情報戦で完全に負けてしまった
- 司令官と部隊の意思統一の大切さ
- マニュアルに囚われすぎることの危険性
- 教訓ではないが、この戦いは「運」の要素も大きかった
ニミッツ提督
最後まで読んでいただきありがとうございました!